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学芸員がやさしくアートを解説します|浄土五祖絵

浄土宗のすごいお坊さんたち

善導巻【第二段】10歳余りで出家する善導

 

―これは何の絵ですか?

中国の浄土宗のお坊さんたちについてまとめた伝記絵巻です。もともとは鎌倉にある光明寺に伝わりました。西暦1100年代、日本では法然(ほうねん、1133~1212)が、念仏(「南無阿弥陀仏」)を唱える人は誰でも極楽浄土に行けるという浄土宗を立ち上げました。その教えの基礎を作った5人の中国のお坊さんたち(曇鸞[どんらん]、道綽[どうしゃく]、善導[ぜんどう]、懐感[えかん]、少康[しょうこう])を「浄土五祖」と呼び、大変重要視しました。

 

―中国のお坊さんのお話なのに、日本で絵巻をつくったのですか?

人物たちの着ている服や建物を見てみると、日本っぽくないですよね?この絵巻を描いた人は日本人ですが、中国のお坊さんたちのお話ですので「中国風」に描いています。 平たく言ってしまえば、この絵巻は昔の偉人伝記マンガのようなもので、自分の宗派には昔こんなすごいお坊さんたちがいて数々の素晴らしいことをした、ということを伝えるために作られたのです。

 

―5人全員分の絵巻があるのですか?

作られた当初は、5人全員の絵巻があったと言われていますが、現在はその一部しか残っていません。藤田美術館の絵巻には、善導(ぜんどう、613~681)と道綽(どうしゃく、562~645)という2人の話が描かれています。

 

―どんな内容ですか?

それぞれの生涯や、素晴らしい業績や奇跡が起こった(起こした)ことなどをエピソード形式で綴っています。2人とも幼い頃からとても賢く学問好きで、早くに出家するというのは、共通するエピソードのようですね。

善導巻【第四段】『観無量寿経』を読みながら歩くと、水中から蓮華が生じ、空から天人が舞い降りた

―この場面はどんなお話なのでしょうか?

例えばここでは善導の修行中に起こった奇跡が描かれています。『観無量寿経』というありがたいお経を唱えながら歩くと、水中で蓮の花が咲き、空から天人が舞い降りてきた、というエピソードです。

道綽巻【第二段】晩年道綽が念仏を唱えると、天から蓮華が降ってきた

―これは花びらが空から降っているのでしょうか?しかも皆一生懸命拾って集めています。

これは道綽の晩年のエピソードになります。道綽が念仏を唱えると、天から色とりどりの蓮の花が降ってくる奇跡が起こったという場面です。その奇跡を目の当たりにした人々が、天から降ってきた花を吉兆として、ありがたがって集めている様子ですね。

この2人のエピソードからもわかるように、仏教において、蓮は仏の花として神聖なものとされ、奇跡が起こる場面では、しばしば象徴的に描かれるようです。

道綽巻【第四段】澄円のエピソード。夢で老僧からお告げを受け、詞書の執筆を決意する

―これは違うお坊さんに見えますが、一体誰ですか?

日本の浄土宗の澄円(ちょうえん、1290~1372)というお坊さんです。彼は「浄土五祖」ではないのですが、浄土五祖絵を編纂して詞書を書いた人物として伝わっています。西暦1200~1300年代に実在していて、中国(元)への留学経験がある学識に富んだお坊さんだったそうです。この澄円のエピソードが道綽巻の末尾に混じっています。

 

―ここは日本でしょうか?中国でしょうか?

澄円は日本人なので、ここから日本での出来事が描かれています。澄円はある時、法然に関する秘蔵の書を目にすることができ、これを世に出すかどうか迷っていたところ、夢でお告げを受けて決意した、という内容が描かれています。

 

―「浄土五祖」ではないのに、この澄円のエピソードをわざわざ書いた理由は何ですか?

この「浄土五祖絵」の基礎、つまり詞書を書き起こした非常に重要な人物としてみなされていたと思います。はるか昔に活躍した浄土五祖の業績や教えはもちろん大切ですが、それを継承する過程に携わった人物にも注目してほしかったのではないでしょうか。

 

―一言で言うと

浄土宗の基礎をつくったお坊さんたちの超人的なエピソードや奇跡の数々が盛りだくさんの伝記絵巻。

 

 

今回の作品: [重文]浄土五祖絵(じょうどごそえ) 

           善導(ぜんどう)巻・道綽(どうしゃく)巻

員数 2巻 

時代 南北朝時代 14世紀       

法然(ほうねん)が選定した、浄土宗の基礎を作った中国の高僧5人(曇鸞[どんらん]、道綽[どうしゃく]、善導[ぜんどう]、懐感[えかん]、少康[しょうこう])の伝記絵巻。藤田美術館は善導巻と道綽巻を所蔵。それぞれの生涯や業績などが緻密な描写で描かれる。道綽巻の一部には、法然や本絵巻詞書を撰述した澄円(ちょうえん)のエピソードも盛り込まれている。

 

 

 

藤田美術館

明治時代に活躍した実業家、藤田傳三郎と息子の平太郎、徳次郎によって築かれた美術工芸品コレクションを公開するため、1954年に大阪に開館。国宝9件、重要文化財53件を含む世界屈指の日本・東洋美術のコレクションを所蔵。

 

本多康子

藤田美術館学芸員。専門は絵巻と物語絵。美味しいお茶、コーヒー、お菓子が好き。最近買ったお気に入りのミュージアムグッズ:某博物館の絵巻のぬいぐるみ。

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