和歌の名手が描かれた絵 | 藤田美術館 | FUJITA MUSEUM藤田美術館 | FUJITA MUSEUM

2022年4月 リニューアルオープン(予定)

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INTRODUCTORY SELECTION

入門50選_45 | 大伴家持像(上畳三十六歌仙切)

和歌の名手が描かれた絵

前野学芸員がやさしくアートを解説します。

 

大伴家持像(上畳三十六歌仙切) おおとものやかもちぞう(あげだたみぼんさんじゅうろっかせんぎれ)

 

 

―これは何ですか?
歌仙切(かせんぎれ)です。
歌の上手な人(=歌仙)を描いた、歌仙絵の断簡(だんかん)です。
絵巻を切ったものを断簡と呼びます。

 

―なぜ絵巻を切って掛軸にするのですか?
床の間に掛けるためと思われます。巻子の形で作られた三十六歌仙絵が、歌仙一人ずつに切り離され、掛軸装に改められました。

 

―いつ頃のものですか?
鎌倉時代のものです。

 

―三十六歌仙とはなんですか?
平安時代の藤原公任(ふじわらのきんとう 966〜1041)が選んだ、公任の時代までの和歌の上手なトップ36人です。
鎌倉時代になると人気が高まり、たくさんの歌仙絵が制作されるようになりました。

 

―それで、この男性は誰ですか?
大伴家持(おおとものやかもち ?~785)です。
奈良時代の歌人で、『万葉集』にも数多くの歌が載っています。

 

―なぜ大伴家持と分かるのですか?
肖像の右側に書かれている文字から分かります。
ここには家持の名前や来歴などと家持の詠んだ和歌が記されています。

 

中納言従三位家持

  東宮大夫大伴家持大納言旅人男鎮守府将軍

  さをしかのあさたつをののあきはきを

  たまとみるまてをけるしらつゆ

     中納言従三位家持

 

東宮大夫大伴家持は大納言(大伴)旅人の息子である。
鎮守府将軍である。(下略)

 

 

 

―家持はこんな顔をしていたのですね。
本当にこのような顔をしていたのか、実際にはわかりません。
個人の特徴をとらえた肖像画の多くは鎌倉時代になって描かれるようになったため、それ以前のリアルな肖像画はほとんどありません。これは鎌倉時代にイメージされた家持の顔です。

 

大伴家持

 

 

―着ている着物は奈良時代のもの?
いいえ、衣装はこの絵が描かれた鎌倉時代のもので、肩の張った強装束(こわしょうぞく)と呼ばれるものです。

 

―畳に座っているのですか?
置き畳に座っている姿で描かれています。ひな人形でお内裏様などが座っている畳と同じようなものです。
畳に座っている姿からこの歌仙絵は「上畳本(あげだたみぼん)」と呼ばれています。
今すべてが現存していませんが、36人全員が畳に座る姿で描かれていたと思われます。

 

―歌仙絵は畳に座るのが普通なのですか?
逆に歌仙絵は畳に座る方が珍しく、多くは肖像だけがぽつんと描かれることが多いです。

 

―三十六歌仙絵の巻子はどのように使われたのでしょうか?愛蔵本のようなものですか?
そうですね、個人で持つ愛蔵本と言っていいかもしれません。贈り物として使われたかもしれません。

 

―いつ頃、掛軸になったのでしょう?
江戸時代には切られ、掛軸になっていたようです。
同じような歌仙絵で有名なものが、上畳本より古い「佐竹本三十六歌仙絵」です。大正時代に売りに出されたものの、高価なため単独での買い手がつかず、益田孝(鈍翁 どんのう)を中心に作品を分割して購入し、それぞれ掛軸になりました。

 

―何でできているのですか?        
紙に墨や絵の具を用いて描いて(書いて)います。

 

―一言でいうと?            
鎌倉時代にイメージされた大伴家持像です。この絵の元は「佐竹本三十六歌仙」で、ほぼ同じ容姿で描かれています。以後、大伴家持像のイメージソースのひとつとなっています。

 

 

 

今回の作品: 重要文化財 大伴家持像(上畳三十六歌仙切)

おおとものやかもちぞう(あげだたみぼんさんじゅうろっかせんぎれ)

員数 1幅

時代 鎌倉時代  13世紀

和歌に優れた36人の歌仙を描いた絵巻の断簡です。上畳に座ることから上畳本三十六歌仙と呼ばれ、現存の歌仙絵としては古く、大変貴重なものです。家持は奈良時代の人物ですが、描かれた鎌倉時代の衣装を身にまとっています。

 

 

藤田美術館

明治時代に活躍した実業家、藤田傳三郎と息子の平太郎、徳次郎によって築かれた美術工芸品コレクションを公開するため、1954年に大阪に開館。国宝9件、重要文化財53件を含む世界屈指の日本・東洋美術のコレクションを所蔵。

 

前野絵里  

藤田美術館主任学芸員。所蔵する日本や東洋の古美術品に絡むものはもちろん、宗教、建築、歴史なんでも気になる。直接役立つことも役立たないことも体験体感することが一番と考えている。

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