室町時代の絹織物 | 藤田美術館 | FUJITA MUSEUM

2022年4月 リニューアルオープン(予定)

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INTRODUCTORY SELECTION

入門50選_38 | 錦幡(赤地蓮花蝶文)

室町時代の絹織物

前野学芸員がやさしくアートを解説します。

 

錦幡(赤地蓮花蝶文) にしきばん(あかじれんげちょうもん)

 

 

―これは何ですか?
錦幡(にしきばん)といいます。幡とは旗のことで、仏や菩薩などを荘厳する(おごそかに飾る)ために寺院の堂内や庭に掛けるものです。

 

―どこで作られたものですか?
日本で作られました。

 

―幡は日本のものなのですか?
中国大陸より仏教と一緒に日本に伝わったと考えられています。
形の意味は分かりませんが、中国の敦煌の石窟(せっくつ)寺院にある壁画に描かれた幡(5、6~8世紀頃)の姿は、錦幡に近い形をしています。

 

―不思議な形ですね。
イカのように見えますが、各部分に身、頭、舌、手、足と人体を連想させる名称がついています。
中央の蓮華の花が表わされている長方形部分が「幡身(ばんしん)」。
一番上の三角形の部分が「幡頭(ばんとう)」、幡頭の中央から下がっているのが「幡舌(ばんぜつ)」、幡身の両側に出ているひらひらが「幡手(ばんしゅ)」、幡身の下についている長いものが「幡足(ばんそく)」です。足は4本のものと5本のものがあります。

 

―先に金具がついています。
竿の先に引っ掛けるためのものです。

 

―いつから日本で使われていましたか?
飛鳥時代の仏教伝来初期より使われているようです。
奈良時代を中心とした法隆寺、東大寺、正倉院などで使われたものが現在も残っています。

 

―全て同じ形ですか?
法隆寺や東大寺に伝わる幡は少し形が異なっています。
この錦幡と同じような形はいつ頃からあるか定かではありません。
平安時代の作例は残っていないようですが、鎌倉時代以降は、錦幡と同じような形式になります。

 

―幡って、あまり見たことがないですね。
そうですね。実際に使われているところを見る機会は少ないかもしれません。
描かれたものを探すと結構あり、鎌倉時代の絵巻「玄奘三蔵絵」(第1、2回)にも出てきますし、仏教絵画にも見られます。

 

幡(玄奘三蔵絵第1巻から)

 

 

―ということは、今も使われているのですか?
今も大きな法要などで使われています。

 

―この幡の大きさは?
全長で259.8㎝です。

 

―何でできているのですか?
絹です。蓮華や蝶の文様がある部分(幡身)は、多彩な色の糸で模様を織り出した織物で、錦織です。
ひらひらと長い手足などは平織の絹に縁取りがついています。
幡身は芯に厚紙が入っていて固いのですが、手や足は絹1枚でできており、風が吹いた時にひらひらとなびく、軽くて透ける素材が使われています。

 

錦幡

 

 

―表と裏は一緒ですか?
はい、表裏にほとんど違いはありません。足と手は幡身に差し込んであります。

 

―この幡はどこのお寺にあったものですか?
はっきりと分かっていませんが、同様の幡が滋賀県の西明寺(さいみょうじ)にあり、西明寺にあったものと考えられています。

 

―いつ頃のものですか?
西明寺のものに「永享(えいきょう)7年」と墨書があり、これらの幡が1435年頃に作られたと考えられています。

 

―3旈(りゅう)とは? 3枚あるということですか?
はい、藤田美術館に3旈あります。旈の訓読みは「はたあし」「ながれ」で、旗を数える単位として使われる言葉です。

 

―一言でいうと?
15世紀の染織作品で、お寺の堂の内外に掛けて使われます。幡足や幡手は薄い平絹が使われており、棹の先で軽やかに風にひるがえる姿が想像されます。幡足まできっちりと残っていることは稀で、今後の保存が課題です。

 

 

 

 

今回の作品: 重要文化財 錦幡(赤地蓮花蝶文) にしきばん(あかじれんげちょうもん)

員数 3旈

時代 室町時代 15世紀                

寺院の堂内や庭に掛け、仏を供養する仏具です。蓮華に蝶の文様を織り出した倭錦(やまとにしき)や赤の段染めで縁取った手や足など、保存の難しい絹織物を用いながらも原型をとどめている貴重な作品です。  

 

 

 

藤田美術館

明治時代に活躍した実業家、藤田傳三郎と息子の平太郎、徳次郎によって築かれた美術工芸品コレクションを公開するため、1954年に大阪に開館。国宝9件、重要文化財53件を含む世界屈指の日本・東洋美術のコレクションを所蔵。

 

前野絵里  

藤田美術館主任学芸員。所蔵する日本や東洋の古美術品に絡むものはもちろん、宗教、建築、歴史なんでも気になる。直接役立つことも役立たないことも体験体感することが一番と考えている。

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