ART TALK

ART TALK_09 | アートと植物

西畠清順さん
(そら植物園株式会社 代表取締役)

 

“ひとの心に植物を植える”をテーマに、植物にまつわるさまざまな活動を行う西畠清順さん。2017年に開催された「めざせ!世界一のクリスマスツリーPROJECT」をはじめとするイベントや緑化事業、ラグジュアリーブランドの展示会デコレーションやホテルのガーデンデザインなど、その活躍は国内のみならず、海外にも及んでいます。西畠さんが運営する、珍しい植物や驚くほど大型の植物が生い茂る「そら植物園」の大阪農場を訪ね、アートと植物の関係性について語り合いました。

 

 

曜変天目は、初めて見る珍しい植物のようだった

 

藤田 清(以下藤田) 2019年春、奈良国立博物館での展覧会に来ていただきましたね。

 

西畠清順(以下西畠) はい、僕は古美術に関しては素人ですが、めちゃめちゃ感動しましたよ。曜変天目にずっと憧れていたから、もうアイドルに会ったというか、大先生に会ったというか。

 

藤田 藤田美術館の曜変天目は、なんというか、何層にもなった肌の奥に光があるんですよね。これは言葉や写真ではなかなか表現できないのですが。以前、中国の曜変天目の陶片の取材に同行したとき、光が散っていてすごくきれいだったのですが、自分の目には表面が光っているように見えました。取材チームの方々にそのことを話したのですが、あまり賛同を得られなくて。でも、最後にカメラマンの方がウチの曜変天目を撮影したときに、ファインダーを覗いた瞬間、「やっと言ってたことがわかりました」って。お茶碗の表面にピントを合わせると、奥で光っているところにはピントが合わない。

 

西畠 曜変天目にも、それぞれに個性があるんですね。僕からしたら、曜変天目というだけで神格化してしまっていました。でもとにかく、珍しい植物に初めて出合ったときのように感激したんですよね。“この斑(ふ)入りは、ないわ!”って(笑)。

 

 

藤田 茶碗はとくに植物とか花とかに近いかもしれませんね。同じ種類でも、まったく一緒のものがないこととか、どんなに人間が手をかけても、最後は自然の力で仕上がるので完全に思惑通りにはならない点とか。

 

西畠 一つとして同じものはないですものね、植物も、焼き物も。

 

 

植物の目利きと古美術の目利きの共通点

 

藤田 僕らは、松とかモミジとかがいい枝ぶりしているな、というところまではなんとなく感じるのですが、たとえばここにあるオリーブの古木の良し悪しは全然わからないです。何か基準みたいなものがあるのでしょうか。

 

西畠 僕は関西の緑化を支えてきた植木の産地で代々植物の問屋の家に育ったのですが、若い頃は、僕の言い方で言うと植物に物心がついていなかったんですよね。植物に囲まれた環境にいても、意識に入ってこなかった。物心ついたのは21歳の時、海外の“けったいな植物”を見たときからですね。植物はすべて自然のものなので基準がないように思われるかもしれませんが、植木や切り花の世界にも、実は、目利きのしかたというのがあります。もちろんトレンドもありますし、美意識やセンス、感性だけで見るのではない、プロの見かたですね。究極は、たとえば富貴蘭とか万年青(おもと)とか観音竹などで、見た目はほとんど一緒なんですが、「この斑の入り方が〜」とか言いながら価格が一桁変わるという、そんなことに異常に興奮する世界なんですよ。

 

藤田 もうそれは、お茶道具と一緒です! 「このお茶碗のこのシミがええやん」って、シミのあるなしで、やっぱり評価が変わります(笑)。

 

 

西畠 だから曜変天目を見たときに、新しい植物に出合ったみたいな気持ちになったんですよね。まさに“斑入り”の世界。植物だとこれは日本人特有で、西洋では斑が入っていると葉緑素が少ないから病気がちだと思われてしまうので、そこに価値は見出さないんですよ。一方で日本人は、そこでお金儲けしあったり、だましあったりしてきた民族ですよね。

 

藤田 ちょっと変態入っている世界ですよね、もう(笑)。よくわかります。

 

 

美術館と植物は共存できる?

 

藤田 僕は常々、美術館でも植物を見せることができないかって思っていたんですよ。とくに花入に花が入っていないのはどうなんだろう、と。もちろん花入そのものの造形が美しいかどうかということも重要ですが、そうではない見せ方をする一角があってもいいのではないかと。虫とか水とか問題はたくさんあるけれど、何かクリアする方法もあるんじゃないか、なんて思ったり。

 

西畠 もともと目的があって作られたものが、カリスマになった瞬間に、定めから切り離されますものね。でも、ボーダーラインを引くのも人間だし、そのボーダーラインを超えるのも人間ですよね。すごく勇気がいることかもしれませんが、面白い試みですよね。

 

藤田 お茶会などで道具を見ていると、神格化されているものでも、神格視してはいけないな、とつくづく思います。神格視すると、それはもう道具ではなくなってしまう。

 

 

西畠 そうですよね。ちゃんと見ることができなくなってしまう。人間でも、カリスマとしてあがめられている人だって、普通に話もするし、食事もする。もしお茶碗に人格があったら「いや、オレそんなんちゃうし」って言うと思います(笑)。

 

藤田 「ちゃんとお茶入れて〜」って(笑)。

 

西畠 古い花器だって、使った後にちゃんと拭いて片付ければ、何事もなかっただろうし、使われるために生まれてきたものだと思うんですよね。僕らは大変貴重な器に花や木をいける仕事をすることもあるのですが、これだったらあの山のあの木のあの枝だな、というところまで突き詰めて花材を用意して、それこそ花器の重さまで計算して準備をします。そうやって現場でいけたときに、運命だなと思うくらい、植物と、器と、空間とがぴたっと合う瞬間があります。まるで音楽のように響きあう瞬間というか、本当に感動的な、コンプリートした!という感覚が生まれるんですよね。

 

藤田 お茶室もそうですね。必ず庭があって、床には花が飾られていて。でも美術館だと、どうしてもその点が切り離さなくてはいけないので、なんとかしたいですね。

 

西畠 もしかしたら未来の美術館のあり方に関わってくるかもしれませんね。近頃は、建築とランドスケープ・デザインの境界があいまいになってきているんですよ。従来は、ここまでが建築の領域だから、ここから先に植物を植えていいよ、というやり方だったと思うのですが、最近では、建築サイドはどうやったら元の地形に寄り添えるかを考えるし、ランドスケープ・デザインの側も、いかに建築と有機的につながれるかということを考えます。

 

藤田 文化財と自然環境との関わりは本当に難しいですね。でも、長い歴史のなかで最も実績がある収蔵庫って、正倉院なんですよね。空調などの設備がないあの建物の中に1000年以上入っていたものが、あれだけきれいな状態で残っていることを考えると、何か新しい形が見えてくるかもしれません。

 

 

植物がアートにもたらすもの

 

藤田 考えれば考えるほど、植物とアートの関連性は深いですね。

 

西畠 ちょっと飛躍しますが、皆さんがよく知っているゴッホのひまわりの絵も、16世紀にスペイン人のプラントハンターが種を持ち帰って、その後ヨーロッパに広まっていなかったら、19世紀にゴッホが描いていないんですよね。日本の古美術に描かれている花も、中国から入ってきているものが多いです。プラントハンターが芸術に影響を与えているということは、歴史的な事実だといえると思います。

 

藤田 美術の勉強をするときに、最初に必ず出てくるのが、ラスコーの壁画の動物の絵ですよね。食料がちゃんと獲れますようにという、祈りによって描かれたもの。その後、芸術として初めて描かれた絵は、おそらく動物や花だろうと。そう考えると、何よりも人間の近くにあって、芸術の源となったのは植物といえるかもしれない。

 

 

西畠 藝術の藝という字は、苗木を捧げもつ、苗木を植える、という象形文字からきているはずなので、本当に、アートと植物、僕らがしていることは、実はすごく近いところにあると思います。話は変わりますが、僕はいつか、仏典に出てくる植物を集めた「仏教植物園」を作りたいと思っているんですよ。藤田美術館さんでも、そんな美術展ができたらいいなと思います。

 

藤田 以前、似たような企画をやったことがあるんですよ。作品に描かれた花と、歌に詠まれた花をテーマにした展覧会。これが、あまり人が入らなかったんですよね……(笑)。

 

西畠 うそぉ! 僕に相談してくれれば(笑)。では、今後のミッションにしましょう。同じテーマで、どうやったら多くの人に見ていただけるか。花や植木、庭いじりを愛する多くの人に、古美術を愛でる目をもってもらう。これはやりがいのある作業ですね。

 

藤田 ぜひ大暴れしてください! よろしくお願いします。

 

 

⻄畠清順(にしはた せいじゅん)

そら植物園株式会社 代表取締役

1980年、幕末から続く植物問屋に生まれる。高校卒業後オーストラリアに渡り、キャンピングカー生活や東南アジア諸国の放浪を経て、ボルネオ・キナバル山の登山中に出会った食虫植物に魅了され、2001年から植物の仕事に没頭、天職とする。以降、国内はもちろん世界中を旅して、活け花、庭園、空間緑化などのための植物の収集・調達に明け暮れる。

2012年 “ひとの心に植物を植える活動” そら植物園を立ち上げ、「共存」をテーマに東京都心に世界の植物がひとつの森を形成する「代々木ビレッジ」の庭を手がけ日本の都市緑化に大きな影響を与える。今では年間約250トンを超える植物の国際取引を行い、国内外の公共施設や商業施設の緑化、行政から寄せられる様々なコンサルティング業務、幅広い講演や執筆活動、大河ドラマを含む各種撮影現場での演出、アーティストや教育機関、神社仏閣、文化施設とのプロジェクトなど、ジャンルにとらわれないボーダーレスな活動が数々のメディアに「プラントハンター」として取り上げられ、植物業界に革命を起こし続けている。2015年、シンガポール政府から依頼を受け「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」にて開催された日本との国交50周年を記念した花見イベントにて、日本中から集めた桜を輸送して咲かせ、当時の入場者記録を更新するなど成功に導いた。2017年、神戸開港150年記念事業の関連事業として行った「めざせ!世界一のクリスマスツリーPROJECT」では141万人を動員。2019年には故ダイアナ妃からウィリアム王子が受け継ぎ、パトロンを務めている英国チャリティー団体「センターポイント 」の50周年を記念したイベント会場の植物空間プロデュースを行い、その活動が大きく評価された。現在も様々な植物の可能性を届けるプロジェクトを世界中で進行中。

日本出版販売株式会社、株式会社TSUTAYA、そら植物園株式会社の合弁会社 日本緑化企画株式会社 顧問。新潟県三条市「企業コンサルティング 育成事業」コンサルタント、山口県宇部市ときわミュージアム「世界を旅する植物館」プロデューサー、 九州国立博物館 フィールドミュージアム等将来構想策定委員。受賞歴にカルティエ=リシュモン ジャパンが協賛する日経ビジネスオンライン「チェンジメーカー オブ ザ イヤー 2015」など。

著書に、中学入試問題や学習塾の教宣などでも多数引用されている「教えてくれたのは、植物でした」(徳間書店) など。

https://from-sora.com

https://www.instagram.com/seijun_nishihata/

 

藤田清(ふじたきよし)

1978年藤田傳三郎から数えて5代目にあたる藤田家五男として神戸に生まれる。大学卒業後、2002年に藤田美術館へ。2013年に館長に就任。現在は、2022年の美術館リニューアルに向けて準備中。

 

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