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ART TALK_19|お茶とアート

徳淵卓さん(万yorozu 茶司)

 

 

福岡県福岡市中央区赤坂にある茶酒房「万yorozu」を運営する德淵 卓さん。藤田館長とは共通の知人・友人も多く、美術館にも足を運んでいただいています。今回は、德淵さんを訪ねて藤田館長が福岡に飛び、「万 yorozu」にお邪魔しました。おいしい日本茶をいただきながら、お茶、茶道具、そしてお酒の楽しみ方について、大いに語り合いました。

 

 

 

甘露なり、氷出しの玉露

 

藤田 清館長(以下藤田) こんにちは。何度もお目にかかっていますが、ようやくお店にお邪魔することができました。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

 

德淵 卓(以下德淵) ようこそお越しくださいました。よろしくお願いいたします。 

 

藤田 こちらでは、お茶とお酒と和菓子を提供していらっしゃるんですね。

 

德淵 そうですね。お茶とお菓子、それからお酒を各種揃えています。お茶を使ったカクテルなんかもありますよ。

 

 

藤田 メニューを見ているだけでワクワクしますね。実山椒とカモミールの緑茶ジントニックやほうじ茶ハイボールなんて、すごく興味があります(笑)。日本版モヒートみたいな感じでしょうか。

 

德淵 ハーブというと西洋から来たものと思われがちですが、紫蘇、山椒、生姜、黒文字など、日本古来の薬草もたくさんありますよね。それらとお茶を組み合わせてご提案しています。

 

藤田 カウンターの中央にあるこれは、炉と釜ですか? 

 

 

德淵 はい。この釜で湯を沸かして、お茶を淹れます。私は学生時代にグラフィックデザインとプロダクトデザインを学んでいたのですが、自分で線を引き、この空間の設計をお願いしたSIMPLICITYの緒方慎一郎さんに手直ししていただいて、造作してもらいました。今では万の象徴になっている釜です。

 

藤田 銅製ですよね。かっこいいです。

 

德淵 ありがとうございます。銅の経年変化が表情を出してくれます。お酒は後ほど召し上がっていただくとして(笑)、まずは冷たいお茶を差し上げましょう。氷だけで抽出している伝統本玉露です。

 

 

藤田 きれいな色ですね。それに香りがすごい! すっきりした爽やかな味です。

 

德淵 氷が溶けていく過程で、茶葉の旨みだけが自然に抽出されるんですね。これは玉露なので、旨みが強いでしょう? 他にも、在来種の茶葉を氷で出すと、雑味のない、滋味深い味わいになります。

 

藤田 お出汁みたいな旨みです。これだけでお酒が飲めそうですね(笑)。茶葉はブレンドするんですか?

 

德淵 はい。ブレンドでだいぶ味が変わります。製茶しながら足りないと感じた要素を足していく感じでしょうか。福岡から車で約1時間のところに八女(やめ)というお茶の一大産地があります。ブラインドテイスティングなどの恐ろしいテストを経て(笑)、品種別にいい茶葉を仕入れさせていただいています。

 

 

 

作ったり、集めたり。
茶器と酒器の楽しみ

 

藤田 この急須も、すごく素敵ですね。

 

德淵 平宝瓶といいます。茶葉がより広がるようにデザインしています。

 

 

藤田 德淵さんは古いものがお好きなだけではなくて、オリジナルのものもお作りになれるから羨ましいです。初めてお目にかかったときに見せていただいたものが、すごかったんです。

 

德淵 この茶酒器ですね。藤田さんにそう言っていただいて、恐縮です。

 

 

藤田 そうです。これはもう、ひっくり返りました(笑)。御猪口はすべてくり抜きですよね? それなのにとても軽くて、びっくりするほど薄い。

 

德淵 京都の指物職人さんに作っていただいたんですが、お茶もお酒も楽しめる道具です。木の香りがとても気に入っています。

 

 

藤田 注ぎ口がピシッとしていて、またかっこいいんです。蓋を器にしてそこに肴を並べれば、これだけで酒席が完結しますよね。手のひらにのるくらいの小さな箱から、これだけの物がワッと出てくる面白さもある。茶道具を詰めた茶箱というものがありますが、こういう、酒箱もいいなあと思いますね。

 

 

德淵 酒箱っていいですね。色々とアイデアを教えていただきたいです。実はこんなものもあるんですよ。大して古いものではありませんが、面白いなと思って。

 

 

藤田 サイコロを転がして、出た目の大きさの盃で飲むんですね! 粋だなあ。僕はずっと壽が出てほしい(笑)。

 

德淵 重ねられるので収まりがいいし、仲間うちで飲むときなんかに持って行くと盛り上がりますよね。外国の方にも喜ばれます。

 

藤田 これをポケットに入れて飲みに行くなんて、最高ですね。

 

 

 

お茶に親しむきっかけとして
茶箱を作りたい

 

藤田 先ほども少し話に出ましたが、茶箱づくりを進めていらっしゃるんですよね。

 

德淵 まだ途中なのですが、私がいいなと思う現代の作家さんにお声がけして、楽しませてもらっています。以前、藤田家のコレクションの茶箱を拝見させていただきましたが、とても貴重な体験でした。茶箱の魅力とは、何でしょうね。

 

 

藤田 この酒箱のようにきっちり詰めて、小さな箱からこんなに!?というくらい色々出てくると面白くなりそうですよね。

 

德淵 お茶碗は一つだけだと寂しいので、二つ入れたいと考えています。ではそのお茶碗はどんなものを組み合わせたらいいのか、といったことを考えるのが、非常に難しいし、楽しいです。やっぱりお茶碗同士の相性のようなものもありますよね。

 

藤田 德淵さんがなさるんだから、地域的に焼物は唐津が入っていてほしいとか、ちょっとモダンな要素もあるといいなとか、これでお酒も飲めるといいなとか……。先ほども言いましたが、小さな箱の中に道具がきっちり収まって、蓋を開けるとこんなに?と思うほどの道具が次々と出てくることや、その道具の一つ一つに、そのお茶箱を組んだ人ならではの“おっ”と思わせてくれる要素があることが大事ですよね。そして、道具同士の組み合わせ妙が加わるとなおよい、ということですよね。……すごく楽しいじゃないですか!(笑) 

 

德淵 ある作家さんは、力を入れて素晴らしい試作を寄せてくださったのですが、数が作れないことが判明して、ずっこけたり(笑)。

 

藤田 そういうことも楽しみの一つですよね。どのくらいの数を予定しているんですか?

 

德淵 30組くらい作りたいと思っています。

 

藤田 実は藤田美術館でも、今年の9月に所蔵品の茶箱を展示する予定です。何か一緒にできることがあるといいですね。例えば、茶箱の中身が美術館の収蔵品をモチーフにしていたりとか、その茶箱を使ってお茶を点てる会があったりとか。

 

德淵 収蔵品モチーフの茶箱いいですね!茶箱を体験する機会もぜひ! 茶箱は、お茶人の皆さまはもちろんですが、これまでお茶が身近ではなかったかたがたにも、お茶に親しむきっかけになるといいなと考えて作っています。気軽に手に取って、この楽しさを感じていただけたら嬉しいです。

 

藤田 楽しみにしています。本日はありがとうございました。

 

 

 

 

德淵 卓(とくぶち すぐる)
万 yorozu 茶司。1977年生まれ。2012年、福岡県福岡市中央区赤坂にて、「万 yorozu」を開業。厳選した日本茶と菓子、そしてお酒を楽しむ茶酒房として人気を集めている。日本茶を通して世界に日本の伝統文化を伝える活動にも携わり、さまざまな分野の人々とのコラボレーションも行なっている。2019年、世界のベストレストラン50や世界のベストバー50などを発表しているイギリスの50 Bestによる新カテゴリー「World Best 50 discovery」に選出された。
http://www.yorozu-tea.jp

 

 

藤田 清(ふじた きよし)
1978年神戸生まれ。大学卒業後、藤田美術館に学芸員として勤務、2013年に館長就任。
藤田傳三郎から数えて五代目にあたる。

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