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学芸員がやさしくアートを解説します|七官青磁三足香炉 銘東福寺

武将に愛された香炉

七官青磁袴三足香炉 銘 東福寺

―なんだかかわいい!これは何ですか?

青磁で作られた香炉です。細長い三つの足がなんだか生き物みたいで、今にも動き出しそうです。茶席の飾りとして使われます。

 

―こんな形のものがよくある?

三足の香炉は多いです。腰の部分が、袴(はかま)を身に着けたように見えるので、袴腰といい、こちらもよくあります。しかし、足がこんなに細いのはあまり見たことがありません。すらっと長く見えますが、実際は小さくて愛らしい雰囲気です。

 

―七官っていうのは?

青磁の一種です。中国・明時代の中頃から清代まで作られていて、透明感を帯びた淡い青緑色が特徴です。中国からこのタイプの青磁をもたらした七官という役職の人が名の由来になっているといいます。

 

裏はこんな感じ

 

―では、銘の東福寺は?

かつて京都の東福寺にあったことに由来します。その後、戦国大名の伊達政宗(だてまさむね、1567~1636)がこの香炉を入手しました。

 

―伊達政宗って、あの伊達政宗ですか?

そうです。初代仙台藩主・「独眼竜」政宗です。ちなみに、江戸幕府二代目将軍・徳川秀忠(とくがわひでただ、1579~1632)、三代目・家光(いえみつ、1604~1651)父子の仙台藩江戸屋敷への御成(おなり)に際して、政宗はこの香炉を飾ったという記録が残っています。自慢の一品だったんでしょうね。

 

―政宗だけでなく徳川秀忠や家光…よくわからなくなってきました。

当時は茶の湯のことをよく理解して、茶道具を収集し茶会を開くことが戦国大名たちにとってのステイタスでした。織田信長(1534~1582)の茶道具への愛好ぶりや名物狩りの話はよく知られていますし、豊臣秀吉(1537~1598)の北野大茶湯(きたのおおちゃのゆ)も有名ですね。政宗は小さなころから和歌、茶の湯といった文芸に親しみ、千利休にも師事しました。

 

―戦国武将と言えば、戦!というイメージですが、そんな面もあるんですね。

そうですね。茶の湯は単に文化的な趣味というだけでなくて、精神的な修養であるとか、道具の取り揃えや茶会のアレンジメントの考え方が政治や戦の考え方につながるとか、そんな理由もあって好まれたのでしょう。あとは、中国からやってきた唐物の趣味とか。

 

―ところで、香炉ってお香を焚くものですよね?

その通り。元々はお寺で供養する際などにお香を入れて、焚く道具でした。

 

―茶席でも使うんですか?

現在の茶の湯では、香炉を使ってお香を焚くことはあまりありません。使うとしたら飾道具としてですが、常に飾るというわけでもありません。聞香(もんこう、香をの匂いで香木を当てる遊び)などでは使われます。

 

―ひとことで言うと

徳川将軍も見た、伊達家伝来の名品。透明感のある、青みの強い色やかわいらしい姿が魅力。

 

 

今回の作品: 七官青磁三足香炉(しちかんせいじさんそくこうろ)

員数 1個

時代 中国・明時代 13~14世紀       

中国の龍泉窯で作られた香炉で、京都・東福寺に伝わっていたことから銘が付けられています。厚くかかった翠青色の釉にはムラや傷が見られず、上等の出来栄えを示しています。初代仙台藩主・伊達政宗が入手した後、伊達家に愛蔵されました。『観瀾閣宝物目録』には寛永七年四月六日、徳川秀忠と家光の仙台藩江戸屋敷への御成の際に鎖之間にこの香炉が飾られていたことが記されます。

 

藤田美術館

明治時代に活躍した実業家、藤田傳三郎と息子の平太郎、徳次郎によって築かれた美術工芸品コレクションを公開するため、1954年に大阪に開館。国宝9件、重要文化財53件を含む世界屈指の日本・東洋美術のコレクションを所蔵。

 

國井星太

藤田美術館学芸員。きれいなものを見るのとおいしいものを食べる(飲む)のが好き。あとサウナ。美術以外にも哲学、食文化、言語学…と興味の範囲は広め。専門は日本の文人文化。最近読んで面白かった本は廣田龍平『ネット怪談の民俗学』。

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