仲麻呂観月掛板

2023.11.29

仲麻呂観月掛板

2人の男が月を仰いでいる様子を蒔絵であらわしています。主題となっているのは『百人一首』にも所収される阿倍仲麻呂(698~770)の歌「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも」です。若くして遣唐使になり、唐の官吏として活躍した仲麻呂が、帰国を許された送別の宴で見た月に故郷の春日・三笠山にうかぶ月を重ね、望郷の想いを募らせる歌です。しかし船が途中で難破したため中国に引き返し、帰国は叶いませんでした。和装の男が仲麻呂、漢服の男は官僚で詩人の王維(おうい、?~761)だと考えられます。2人は同僚として親交があり、送別の宴で王維が仲麻呂に贈った歌も残っています。

作者の小川破笠(1663~1747)は江戸中期の漆芸家で、貝殻や陶片、鉛など異素材を大胆に用いる加飾技法が特色です。この掛板も、月には金属板、柵には硝子が嵌めこまれています。右下には「卯観子笠翁製」と銘が記されます。

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