
―説相箱ってなんですか?
仏具のひとつです。お寺で法要をするときに用いる道具を入れる箱です。袈裟とか、式次第とか。
―色々入れるってことは結構大きいんですか?
30.2cm×26.5cmで高さは7.4cmなので、あまり大きくはないと思います。
―作者はわかるんですか?
残念ながら作者は分かりません。仏教儀礼に使われた古い道具はほとんどの場合作者は不明です。
―そういうものですか?
そういうものです。例えば、今でも家を建てる時に、工務店とか施工会社の名前はわかっても、実際に作業をした職人さんたちの名前までは知らないですよね。それに近いと思います。
―どこのお寺が持っていたかとか、誰から購入したかとかはわかりますか。
どちらも不明です。これは藤田美術館の美術品が特殊なためです。初代コレクターの藤田傳三郎は買った時の記録を残しているのですが、ほとんどすべての場合、元の所蔵者ではなく仲介した美術商の名前を書いています。売買の時に必ず美術商を通すことによって、適正な価格で取引することを旨としていたと言われています。相手が困窮していて安い値で言ってきても、買い叩くことはなかったようです。
―いつ作られたものはわかりますか?
12世紀ころと考えられるので、平安時代の終わりころですね。800年以上前のことです。
―説相箱というものはその頃にはよくあるものですか。
現存する説相箱は鎌倉時代以降に作られたものが多いです。平安時代に作られたという例は少ないんですよ。重要文化財に指定されている理由の1つですね。

―この柄はなんですか。動物?
これは獅子です。顔を見るとなんだかちょっと間抜けな感じで(笑)。前を向いたり振り返ったりといったポーズやたてがみや尾の細かい模様に変化をつけています。
―なんで獅子がいるのでしょうか。
なぜここに獅子がいるのかは分からないのですが…
獅子はライオンがもとになった霊獣です。仏教では仏の説法を獅子吼(ししく)と言うなど、獅子はしばしば仏典に登場します。仏さまの乗り物でもありますね。
―箱の素材は?
木地に布を貼ってその上から漆を塗っています。内側や裏面はそれがよく分かります。外側面はさらに銀鍍金(メッキ)をした銅板を貼っています。

―獅子は何で出来ていますか?
獅子は金鍍金を施した胴です。加工して獅子の形にした後に鋲で止めてあります。わかりますか?

―本当ですね。よく見たら結構模様があるんですね。
そうですね。毛彫や斑模様が施されています。獅子以外にもその間にある植物文などそれぞれの金具に細かく模様が表現されています。
―ひとことでいうと?
平安時代の貴重な説相箱。獅子の顔が愛らしい。
重文 金胴装獅子宝相華文説相箱
平安時代 12世紀
説相箱は仏教法会において袈裟や法具、法会の式次第などを入れて導師の脇に置いておく箱を言います。木地に布を貼りその上から漆を塗るっています。外側面はさらに銀鍍金の銅板を貼り、装飾を施した種々の金銅金具を鋲で止めています。数少ない平安時代の遺品として意義深い説相箱です。
今回の学芸員:國井星太
藤田美術館学芸員。きれいなものを見るのとおいしいものを食べる(飲む)のが好き。美術以外にも哲学、食文化、言語学…と興味の範囲は広め。専門は日本の文人文化。最近読んでいる面白い本:今村信隆『「お静かに!」の誕生』