
―なんだか難しい名前です…
大丈夫です。よく見てください。弥勒菩薩はほとけさまの名前ですね。交脚はそのまま、足をクロスしていることを言っています。そして座っているので坐像。立っていれば立像ですね。
―じゃあ弥勒菩薩なんですね。なんでわかるんですか?
実ははっきり弥勒とは言い切れないのですが…足をクロスしていることから弥勒と見なされたようです。
―長い髪ですね。女性ですか?
耳の後ろを通って肩に垂れていますね。ただ、仏には性別はありません。中性的というか、性を超越した存在だからです。よって、女性でも男性でもないです。人間でも髪の長さと性別は関係ないですけどね(笑)。ちなみに僕は学生時代ロン毛でした。

―どのくらいの大きさですか?150cmくらいに見えます。
台から像の頭のてっぺんまで全部で44.5cm、像だけだと16.7cmです。意外と小さいですかね?
―これはいつどこで作られたのですか?
中国の北魏で西暦500年代に作られたと考えられています。台の背面に文章(銘文)が刻まれており、ここには制作年である「大魏神亀元年三月」(西暦518年)と制作地「曲陽」(現在の河北省にある地名)の文字が見えます。ただ、台と像がはじめからセットだったかは分かりません。

―それってどういうことですか?
台脚から像を外すことができます。なので、元々違う像の台を外して、この像につけた可能性を排除できません。今はセットで伝わっていますが、それがいつからかは分からないんです。
―複雑ですね…台には亀や人がいます。
中々かわいいでしょう。亀は吉祥(おめでたいこと)の象徴ですから、そんな意味があるかもしれませんが、なぜここにいるかは詳しく分かっていません。

―仏さまは鳥に座ってますね。なんですか?鶏ですか?
鶏は一本足じゃないのでは?この鳥が何かは分かっていません。中国の空想上の鳥だとは思うのですが。
―何故鳥に乗っているのでしょうか。
実は、それもわかっていません。そもそも、鳥に乗っている菩薩は珍しいんですね。孔雀明王というのはいるんですが、孔雀でもないですし。しかも、台と同様に、この像が初めから鳥に乗っていたのかも不明です。
―謎だらけですね。何で出来ているんですか?
金属です。胴などを溶かして型に流し込んでつくります。鋳造(ちゅうぞう)って聞いたことありませんか?それに金メッキを施して出来ています。ただ、金属の含有量は時代や地域によって変わるので、どんな金属がどれくらい入っているか知りたい場合には成分分析をすることもあります。
―成分分析!それでいろんなことが分かりそうです。
蛍光X線を使うことが多いのですが、実は分析結果だけで仏像について分かるわけではありません。2つの像を分析した際に同じ金属組成なので、時代や地域が同じだ!ということは分かります。つまり、これまでの研究で制作年代や製作地が絞り込めているものを基準にしないといけないんですね。基準となる像の分析結果と比較して、色々わかるということになります。
―それでこの像については何かわかったんですか?
像と鳥、台はそんなに遠い時代や地域でない可能性が高いと分かりました。それぞれが別物と思われていたのは、見た目からなんですね。分析結果を踏まえるとこれまでの研究を修正する必要があることもあります。
―美術品をそんな風に研究するんですね。
最近では仏像の画像をAIに学習・分析させて仏像の様式を再検討する研究なども進められています。
―ひとことで言うと?
なぜあなたは鳥に乗る?謎に包まれた北魏の金銅仏。
今回の作品
弥勒菩薩交脚坐像 みろくぼさつこうきゃくざぞう
両脚をX字に交脚させ榻座(とうざ)に坐り、一本足の鳥に乗る菩薩像である。台脚上部背面にある銘文に「大魏神亀元年三月」、「曲陽」と見えることから、中国・北魏の神亀元年(518)に曲陽で発願されたと分かる。鳥及び台脚と像は別具であった可能性が指摘されているが、像本体は台脚と同時期の520年前後に制作されたと見られる。
今回の学芸員:國井星太
藤田美術館学芸員。きれいなものを見るのとおいしいものを食べる(飲む)のが好き。美術以外にも哲学、食文化、言語学…と興味の範囲は広め。専門は日本の文人文化。最近読んだ面白い本:アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』