
―これは何ですか?楽器…ですよね。
そうです。琵琶です。琵琶の中でも平家琵琶といいます。
―琵琶って種類があるんですね。
はい。他に楽琵琶、薩摩琵琶、筑前琵琶があります。平家琵琶は小ぶりで持ち運んだり抱えて弾いたりするのに適しています。
―薩摩とか筑前とかっていうと、琵琶は日本の楽器なんですか?中国だと思っていました。
原型はササン朝ペルシアのあたりと考えられています。中国を通じて日本に入って来たようですね。中国の仏典には「琵琶」の字も見られます。
―琵琶はお坊さんが弾くイメージがあります。
『法華経』などの仏典に根拠があって、素晴らしい音楽を奏でて仏の供養をすれば、自分も成仏できると考えられていました。なので、お坊さんが弾いていました。
―あとは耳なし芳一?あの人も琵琶の人じゃなかったかな…
その通りです!主人公の芳一は盲目の琵琶法師です。朝ドラでも話題になっていますね※。
※収録した2026年1月は小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)とその妻をモデルにした連続テレビ小説「ばけばけ」が放映中でした。第一回放送は妻が夫に「耳なし芳一」を語り聞かせるところから始まります。
―どんな曲を弾くんですか?
平家物語の弾き語りをするんです。琵琶を奏でながら、物語を独特の節をつけて語るんですね。元々は琵琶に合わせて経文を唱えるなどしていた琵琶法師でしたが、平家物語を語る人も出てきた、というわけです。共に盲目の僧侶が多かったようですね。
―「祇園精舎の鐘の声…」ってやつですよね。
そうそう。それで、平家物語を語るときの琵琶なので、平家琵琶と呼ぶわけです。持ち運びに便利で、いろんなところで語りをできるんですね。いわば流しのギター弾きとか、ストリートミュージシャンと思ってください。
―なんで平家物語なんでしょうか。
源平合戦が終わった後の鎮魂を目的として平家物語を繰り返し語ったことが発端とされています。ただそれだけでなく、物語を語ることは勝者側の源氏を称える意味も持ったため、琵琶法師たちは源氏系の貴族からの庇護を受けることになります。彼ら琵琶法師たちの自治組織は当道座(とうどうざ)といい、室町時代には幕府の庇護を受けることになりました。もちろん、内容が面白くて流行したという面もあったとおもいます。
―なるほど。琵琶になにか描いている部分がありますがこれは?
ここに撥を当てるので撥面(ばちめん)と言います。漆絵と象嵌(ぞうがん)で山とそこから流れ落ちる滝、鯉、月があらわされています。

―この銘千寿というのは?
この琵琶に付けられた、いわばニックネームです。琵琶の名手である千手の前(せんじゅのまえ)という女性に因んでいると思われます。千手の前は能曲「千手」にも登場します。ちょっと悲しい恋物語です。同じ音の「手」を「寿」というめでたい漢字に変えています。
―これが作られたのはいつ頃ですか?
付属している由緒書によれば、古代に作られて、平安時代には千手の前が持っていたのでこの銘が付けられ、室町時代には足利義政が秘蔵していた…と伝説的なことが語られています。その後、江戸時代には検校(けんぎょう)と呼ばれる、琵琶法師の手を渡ったようです。
―これはどうやって保管するんですか?ギターみたいにケースがありますか?
こんな箱に入れています。ただ、本体と同時に作られたかは分かりません。鳳凰と桐がデザインされています。

―これ今でも弾けますか?
ちゃんと弦の調整をしたら弾けると思いますが…試したことはないですね。弦は絹製ですので、取り替えることもできます。
―ひとことで言うと?
琵琶の名手・千手の前から銘が付けられた琵琶。どんな音がするんだろう?
今回の作品:平家琵琶 銘千寿
制作年代:江戸時代17~18世紀
雅楽に使用される楽琵琶と同じ作りだが、小ぶりなため持ち運びに適している。琵琶法師が鎌倉時代以降に流行した平家物語を語る際に使用された。銘は平家物語にも登場する白拍子(しらびょうし)千手の前に由来しているのだろう。また、能には平家物語に取材した「千手」という曲があり、千手の前と平重衡(たいらのしげひら)の悲恋を描いている。
撥面上部には多くの平家琵琶と同様に月が象嵌により施され、山と滝、巨大な鯉が漆絵で施される。
今回の学芸員:國井星太
藤田美術館学芸員。きれいなものを見るのとおいしいものを食べる(飲む)のが好き。美術以外にも哲学、食文化、言語学…と興味の範囲は広め。専門は日本の文人文化。最近読んでいる面白い本:樫永真佐夫『殴り合いの文化史』