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学芸員がやさしくアートを解説します│蔵出50選_42|[重文]唐鞍

お馬さんもドレスアップ

手向山八幡宮から伝わる唐鞍7点

―これらは何ですか?

唐風いわゆる中国風の、馬に着用する馬具で合わせて唐鞍(からくら)と総称します。本来ならばもっと種類があるのですが、ここにはその一部の7点が伝わっています。

 

―いつ頃作られたのでしょうか?

およそ700年前、鎌倉時代に作られました。

 

―誰が作ったのですか?

作者は不明ですが、もとは奈良・手向山八幡宮(たむけやまはちまんぐう)に伝わったものとされます。

 

―そもそも何のために作られたのですか?

主に宮廷行事や祭礼などで馬を飾り立てるために用いました。このように儀式のために美しく飾り立てて行列で牽(ひ)く馬を飾馬(かざりうま)といいます。主に天皇の行幸に従う高位の公卿や勅使(ちょくし)の馬等に使用されたようです。

 

―馬の背に腰かけるための鞍とか足をのせる鐙(あぶみ)の形は今とあまり変わらないのですね。でも他はどうやって使うのか想像つきません。

お、よくご存じで!確かに鞍とか鐙は現代でも使われている実用的な馬具です。これらは儀式用なので見た目の華やかさが重要です。基本的な実用馬具に加えて、目や尻尾など部位ごとに細かく分けて作られています。

 

―たしかに色々な種類がありますね。

前輪(まえわ)・後輪(しずわ)・居木(いぎ)で構成される鞍橋(くらぼね)

これは鞍橋(くらぼね)といい、前輪(まえわ)・後輪(しずわ)・居木(いぎ)の3つの部分で構成しています。分かり易く言えば、お尻をのせる部分が居木、前後のストッパーが前輪と後輪です。全て木製で、朱漆や黒漆が塗られています。前から見るとかまぼこ型になだらかに盛り上がっており、居木が幅広に作られているのが特徴です。

 

障泥(あおり)

障泥(あおり)は泥除けです。馬の両腹を2枚で覆って、跳ね上げた泥や馬の汗が衣服を汚さないようにするための馬具です。牛革の上に金銅金具を飾り、2羽の鳥と2羽の孔雀が向かい合うモティーフがあしらわれています。内側から打ち出しているため立体的な盛り上げがみられます。

 

切付(きっつけ)

切付(きっつけ)は、鞍橋の下に着け、馬の背や両脇を保護します。またこれを着用することで鞍が固定され安定します。ガマを編んだ莚(むしろ)に革を貼り、ベンガラ色の漆を塗ったうえに、黒漆で虎柄の文様を描いています。

 

火焔宝珠(かえんほうじゅ)をかたどった雲珠(うず)

雲珠(うず)は、しっぽの部分に着ける装飾です。背面で鞍を安定させるために尻懸(しりがい)という帯を懸け、そのうえに取り付けます。金箔をほどこした木製の宝珠に、金銅製の火焔を付け、さらに木製の台は赤・青・緑に彩色されています。とてもきらきらしく華やかです。

 

馬面(ばめん):実際の目をかたどった目覆い(めおおい)
馬面:額の三日月型の飾り

 

馬面(ばめん)は、馬の顔(面部)に着ける装飾です。鼻から下の部分が失われており、額と目の部分が残っています。牛革を麻布で覆い、表面に漆箔(しっぱく)をほどこしています。また額には大きな三日月形の飾り、目を覆うための半円型の目覆い(めおおい)があしらわれています。目覆いは、実際の目を模して彫り出されて彩色されており、朱漆と黒漆を用いて瞳があらわされています。

 

馬の口にはめる口籠(くつこ)
猿の透かし彫り
揚羽蝶の透かし彫り

口籠(くつこ)は口にはめる飾りで、鉄板を透かし彫りにしたうえに金箔をほどこしています。花や猿、揚羽蝶の文様が彫り出されています。

 

輪鐙(わあぶみ)
輪鐙拡大

輪鐙(わあぶみ)は騎乗する時に乗り手が足を掛けるための用具です。これらは鉄製で上部には龍の頭のモティーフが鋳出されています。また吊り下げる金具が蝶番(ちょうつがい)でつけられており、宝相華(ほうそうげ)文様が精緻に彫られています。

 

―なんだかじゃらじゃら飾りが多くて重そう…。

馬にしてみれば、重いし身動きが取れないし、なかなかつらかったのではないかと。実際はこれら以外にももっと多くの装飾品を付けていたようなので、なんだかかわいそうな気もします。

 

―儀式用のきれいな馬具が作られたということは、やはり昔の人々にとって馬は特別な動物だったのでしょうか?

そうですね。馬は機動力があり、賢くて人の感情を察知するのに長けている動物です。古今東西を通じて、人間のパートナーとして、軍事や運搬、交通、農耕など多方面で活躍してきました。特に日本を含む東アジアでは、王や武人の権力の象徴となったり、戦勝祈願として神への供物となったりしました。また名馬を描いた絵画なども残されていることから、特別に思っていたのだと思います。

 

―そういえば、京都の上賀茂神社の賀茂競馬(かものくらべうま)に行ったことがあります。

これも古い神事ですよね。日本における最古の競馬ともいわれています。寛治7年(1093)、天下泰平と五穀豊穣を祈って宮中で行われていた競馬会を京都・上賀茂神社で行ったことが始まりとされています。右方(うかた)と左方(さかた)がそれぞれ馬を走らせ、早さを競います。この様子を描いた「賀茂競馬図屏風」などもたくさん作られています。

 

【参考画像】「厩図屏風」右隻 室町時代(16世紀) 東京国立博物館所蔵
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

―古い馬の絵もあるんですね。

はい。特に日本においては、鎌倉時代以降に特に馬への関心が高まったように思います。武士にとって馬は戦に欠かせない非常に重要な動物であったためです。馬の医者の秘伝書を絵巻にした「馬医草紙」とか、馬を愛でながら囲碁などに興じる様子を描いた「厩図屏風」もあります。それぞれの馬の個性を写実的に表現する傾向がみられます。

 

―ひとことで言うと?

お馬さん専用アクセサリーあれこれ。

 

[今回の作品]

名称:[重文]唐鞍  

制作年代:鎌倉時代(13世紀)

鎌倉時代に作られた儀式用の飾馬に用いられる唐風の馬具。皆具のうち7点が残る。奈良・手向山八幡宮に伝わったとされる。鞍橋が古い様式であることと、馬面や口籠など珍しい馬具が含まれることが特徴。

 

藤田美術館

明治時代に活躍した実業家、藤田傳三郎と息子の平太郎、徳次郎によって築かれた美術工芸品コレクションを公開するため、1954年に大阪に開館。国宝9件、重要文化財53件を含む世界屈指の日本・東洋美術のコレクションを所蔵。

 

[今回書いた人]本多康子

藤田美術館学芸員。専門は絵巻と物語絵。美味しいお茶、コーヒー、お菓子が好き。最近買ったおきにいり:老舗人形店の狸のぬいぐるみ(もふもふ最高)

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