
―今回もお面ですか。これは何ですか?
これは追儺面(ついなめん)と言います。追儺は病気や災厄といったケガレを払うための儀式で、その時に追い払われる役の人が付ける面です。太い眉に目を剥いて口を開けて、角まであって迫力いっぱいです。
―追い払われる人がつけるってどういうことですか?かわいそう…
ケガレは目に見えないので、それを鬼の姿であらわしたというわけです。お面以外に絵画でも病など悪いものを鬼として描くことがあります。
―節分の豆まきみたいなことですか?
その通りです。節分の起源は追儺があったと考えられています。追儺は元々中国の民間行事ですが、奈良時代には日本に来ていたようで、重要な宮中行事にまでなります。日本の風俗と混ざって現在の節分になっていったようです。豆をまいたりとか。
―恵方巻を食べたりとか。
そうそう。あれも20年位前には今ほどやっていなかったですよね(笑)いつから節分にくっついてきたのでしょうか。日本の行事は起源が分からなくなるくらい、いろんなものを取り込んで現代に伝わっていることが多いですね。
―追儺は日本全国、いろんなところでやっていたんですか?
はい、全国的に行われた行事と考えられています。各地の神社などでお祭りとして継がれていったので、それぞれの地域や神社などに個性豊かな面が生まれたようです。

―このお面は木製ですかね?いつごろのものでしょうか
その通り、木で出来ています。平安時代に作られました。青鬼赤鬼は元からセットだったわけではなく作者が異なり、青鬼の方がやや古いとみられます。鎌倉時代くらいの面になると、もう少しキュッと硬い感じの彫り口が目立つのですが、この2つともやわらかい、おおらかな雰囲気です。
―青と赤でミャクミャクカラーです。
言われてみたら確かに(笑)ちなみに万博には15回くらい行きました。(本記事を執筆しているのは2025年10月13日、日本国際博覧会(大阪・関西万博)の閉幕日でした。ミャクミャクは万博の公式キャラクターの愛称です。)
―そう思うと親しみのある顔に見えてきました
確かに、丸い団子鼻で滑稽さがありますよね。鬼なのにおかしみがあって、面白いです。
―藤田美術館には他にもお面はあるんですか?
追儺面とみられる面もありますし、能面、伎楽(ぎがく)面、その他詳しくはわかっていないものなど、色々あります。藤田家の人々は能に関心が強かったので、他の芸能のものも集めたのかな、と思っています。

―お面とひとくくりにしましたが、どれも印象が違いますね
やはり、芸能に用いられたもの、儀式やお祭りに用いられたものなど、それぞれの目的で目指す方向が変わるのだと思います。その中でも、例えば能だと役によって雰囲気が変わりますし、非常に様々です。過去に50選でも取り上げてるので、是非ご覧ください。
―ひとことで言うと?
鬼をあらわしたのに、どこか愛くるしい追儺面。
〔今回の作品〕
作品名:追儺面 青鬼
制作年代:平安時代 11~12世紀
追儺は疫を払う目的で行われた中国の行事を起源とし、日本では宮中行事となり重要視された。鬼は疫を具現化させた存在であり、この面では太く隆起した眉や巨大な団子鼻、大きな牙と異形を示す。表面の起伏や抑揚がおおらかであることから、平安時代に制作されたと考えられる。
藤田美術館
明治時代に活躍した実業家、藤田傳三郎と息子の平太郎、徳次郎によって築かれた美術工芸品コレクションを公開するため、1954年に大阪に開館。国宝9件、重要文化財53件を含む世界屈指の日本・東洋美術のコレクションを所蔵。
本多康子
藤田美術館学芸員。専門は絵巻と物語絵。美味しいお茶、コーヒー、お菓子が好き。最近買ったおきにいり:もっちりミャクミャクぬいぐるみ