歌人を左右に分けて、詠じた和歌の優劣を競う歌合は、平安時代に成立して以降、貴族を中心に楽しまれてきました。この絵は右に貴族・藤原道信(ふじわらのみちのぶ、972~994)、左に僧・行尊(ぎょうそん、1055~1135)を描き、それぞれの和歌を記します。このような活躍した時期の異なる人物による架空の歌合を「時代不同歌合」といいます。制作当初、この絵は絵巻物でしたが、行尊と道信の部分を切り取って掛け軸に仕立てています。細く均一な線で彩色をほどこさない白描(はくびょう)であらわされています。
百丗六番
左 藤原道信朝臣
あきはつるさ夜ふけかたの月みれは
袖ものこらすつゆそおきける
右 大僧正行尊
はるくれは袖のこほりもとけにけり
もりくる月のやとるはかりに
百丗七番
左
かきりあれはけふぬきすてつふちころも
はてなきものはなみたなりけり
右
もろともにあはれと思へやまさくら
はなよりほかにしる人もなし
百丗八番
左
あけぬれはくるゝ物とはしりなから
なをうらめしきあさほらけかな
右
草のいほをなにつゆけしと思けむ
もらぬいはやも袖はぬれけり