
―なんだかたくさんある!これらはなんですか?
密教の儀式で使われる仏具です。
―どんな儀式ですか?
修法(しゅほう)といって、国家や人のために災いを祓い幸いをもたらすための儀式です。お堂の中に大きな壇を設けて、そこにこれらの密教法具を整然と並べ、執り行います。

―作品名にもある「金銅(こんどう)」とはなんですか?
熱で溶かした銅を型に流し込んで全体を作った後(鋳造、ちゅうぞう)、表面に金メッキを施した(鍍金、ときん)ものを金銅といいます。
―密教法具はすべてこのように金色なのですか?
銅の表面に何も施さないものや、銀を施すものもありますが、鍍金されているものが圧倒的に多いです。
―なぜ金色できらきらにするのでしょうか。
仏像や堂内を美しく厳かに飾り立てることを、専門用語で「荘厳(しょうごん)」といいます。荘厳することは、仏への信仰心そのものです。なかでも特に仏教美術には金が多用されますが、金色の持つ装飾性や聖性が好まれたからだと思います。
―なぜ重要文化財に指定されているのですか?
これだけ数があると、長い歴史の中でなにかが欠けたりすることがよくあります。しかしこの密教法具は、大部分が当時のまま残っているセットで、貴重です。もともとは、空海が開いた真言密教の聖地・高野山にあったそうです。鎌倉時代後期頃の作ですが、金がよく残っていて、保存状態も良好です。
―この棒はなんですか?
大壇の四隅に立てて、結界を作るものです。「四橛(しけつ)」といいます。

―あ、そうなんですね。てっきり別の道具に取り付けて延ばして使うものかと…
言われてみれば、ジョイント式の延長ポール部品みたいに見えますね。某住宅用掃除シートを思い浮かべちゃいました。しかし重たいので、合体させて延ばすというような使い方には不向きです。
―これらは重いんですか?
はい。すべて銅製で、ひとつひとつがずっしりと重たいです。
―すべてばらばらにできるのですか?それとも引っ付いている?
基本的にすべてばらばらです。なので展示作業は大変でした。最近ですと2023年10月に展示したのですが…
―え、ぜんぶ展示したんですか?
いえ、全ては展示ケースに納まらないので、ハーフサイズです。こんな感じ。

―なんというか、全体的にデザインがとげとげしていて、カッコいいです。
密教法具は、大きく2つに分けることができます。儀式の清浄な空間を作るための「結界具」と、仏にお供え物をするための「供養具」です。このうち結界具は、デザインの源泉に古代インドの武器があると考えられています。とげとげした雰囲気はこんなところから来ているのかもしれませんね。
―具体的にどんな武器ですか?
突いたり投げたりして攻撃する武器や、大きな音を鳴らして威嚇する武器です。いずれも密教においては、攻撃によってひとびとの煩悩を打ち砕き、眠れる仏性を呼び覚ますものと解釈されています。
―これ…ハンドスピナー(指で持ってくるくる回すおもちゃ)みたいです。
羯磨(かつま)といって、投げるタイプの武器が元のようです。手裏剣のようなものでしょうか。個人的に、この輪宝(りんぽう)は船の舵を操作するハンドルのように見えます。同じく投げる武器を模しています。

―このお盆の上に乗っているものは何に使うんですか?かっこいい。
五鈷鈴(ごこれい)といって、持ち上げて振ると澄んだ美しい音がします。仏菩薩を喜ばせ、人々の仏心を呼び覚まし、その場を浄化する意味合いがあります。「鈷(こ)」は鋭利な切先の部分をさしていて、鉾のような武器が元だと思います。この鈴は鈷が5つあるので「五鈷」。これが両脇につくと五鈷杵(ごこしょ)という法具になり、鈷の数によって独鈷杵(とっこしょ)や三鈷杵(さんこしょ)となります。

―これらは、儀式のなかで具体的にどうやって用いるのでしょうか。特に羯磨、輪宝、五鈷杵あたりが気になります。
基本的に密教の儀式は、秘密裡に行われ伝承されるもので、寺外には明かされません。ですから、詳細な使い方は分からないのです。ただ置いておくだけのものもあるだろうし、手に持って振り上げたりするものもあるだろうし…仏門に入って修行を受ければ見ることができるかと。
―“密教”というくらいですもんね。
藤田美術館に単体で所蔵されている「金銅五鈷鈴」は、鈷の部分が折れて失われています。こうなった経緯は分かっていませんが、硬い金属が折れたり欠けたりするくらい激しく用いる儀式もあるのかもしれません。

―ひとことで言うと?
密教寺院で秘儀を執り行う、ずらりと並んだ迫力の仏具たち。
【今回の作品】重文 金銅密教法具
修法と呼ばれる密教儀礼で用いられる、金銅製の仏具類。密教寺院内に設えられた大壇に整然と並べて儀式を執り行う。仏教の源流であるインドの生活器物や武器を原型としている。輪宝と羯磨以外の法具は、もとは一具として高野山に伝わり、その後藤田家に納められた。全体的に厚作りで鍍金がよく残っており、鎌倉時代後期頃の作風が見られる。
【今回書いた人】石田 楓
藤田美術館学芸員。美術に対しても生きものに対しても「かわいい」を最上の褒め言葉として使う。業務上、色々なジャンルや時代の作品に手を出しているものの、江戸時代中~後期の絵画が大好き。