艶やかな装いの遊女が雲の中に描かれた小さな対幅です。左幅の白象に乗る遊女は普賢菩薩に見立てられています。これは西行物語の一節をもとにつくられた謡曲『江口』に取材したもので、西行が遊女に一夜の宿を断られたという江口(現在の大阪市東淀川区)の旧跡を訪れた旅僧が、かつて西行と歌のやりとりをした遊女の亡霊を読経して弔うと、遊女は普賢菩薩となって消えたというあらすじです。左幅を受け、右幅の遊女は経典に代わる冊子を持たせた文殊菩薩として描かれています。作者の宮川長春(1682~1752)は江戸中期に活躍した浮世絵師で、美人風俗画を得意としました。