INTRODUCTORY SELECTION

前野学芸員がやさしくアートを解説します。|入門50選_03 | 重要文化財 綾張竹華籠

平安時代の繊細な美にふれる

 

綾張竹華籠(あやばりたけけこ)①

 

 

―これは籠ですか?

花籠です。仏教の法要で、散華の花を盛るための籠です。大きさは30㎝ぐらいで、12世紀のものです。

 

―散華(さんげ)って何ですか?

仏などを供養するために花をまくことを散華と言います。実際にインドでは王様を敬う時に花をまいていたことがあったらしく、それが仏教に取り入れられました。仏様が地上に現れる時に蓮華の花が空から降ってくるとされ、インドだと生の花、日本では多くの場合、紙で作られた花がまかれます。
今はお寺によってデザインが違って、まかれる花のことも散華と呼んで散華コレクターもいるんです。
散華を手に入れるには、散華を行う法要に行くしかない。配られたり、購入できる場合もあります。

 

 

玄奘三蔵絵 第5巻第6段 散華が描かれている

 

―この籠は竹ですか?

竹を編んでいます。2重になっていて、籠目編みのものと花文に編んであるものを2つ作って重ね合わせています。竹を細く削って、竹ひごよりも細いものを使って華奢に編んで、その上に布を被せています。

 

―布は?

絹ですね。綾織りで、これも籠と同じ12世紀です。
平織りは普通の木綿みたいな縦糸と横糸が平行に入っている織り方。綾織りはデニムにも使われますが、何本かおきに目を飛ばしていって斜めに交点が出るので、模様が作れます。ここには散り蓮華で花びらの模様が施されています。

 

 

綾織 部分
綾張竹華籠②

 

 

―色は緑色ですか?

萌黄色で黄緑色ですね。緑色というのは1度では出ない色なんです。
天然染料なので、基本的には藍染の藍を薄く染めて、その上から黄色系をもう1回かけて作る。少なくとも2度染めるので、緑は手間がかかっています。緑を見たらすごいねという感じです。その布が被っていて、籠の周りに金属の覆輪をかぶせることで接着せずに籠全体をまとめているような作りになっています。

 

―金属のカバーがかかっているということですか?

留め具みたいなものですね。サハリ合金で金色っぽく光っています。紐が下がっているのは、飾り紐で、結んであって持つと垂れ下がります。まっすぐ下がるように重りが2個ずつついています。

 

―この紐は何でできているんですか?

これは絹糸で、緑と黄色と藍の3色に染めたものを三つ編みみたいに編んであって、揺れたら先端にある飾り金具が鳴るような作りではないかと思います。

 

―こういうものはいっぱいあったんですか?

正倉院に花籠というものがあって、この形ではないですが、あります。大仏開眼供養でも散華していると思うので。

華籠はずっと作られ、使われたと思います。残っていくものというより消耗品で、悪くなったら貴族や檀家さんなりが新しいものを奉納して、入れ替える。金属製や漆塗りのものもありました。

 

―これはどこにあったのですか?

高野山にあったと伝えられています。これは12枚セットです。
藤原秀衡(?〜1187)が作らせて高野山に奉納したという由来があります。

 

―藤原秀衡とは?

中尊寺金色堂などで知られる奥州藤原氏の3代目で、源義経を匿った人としても知られています。

 

―高野山で使っていたのですか?

どんな経緯かわからないのですが、奉納の後、1度は使ったのでは?金色堂に見られる美意識でこういうものを作っているのではと想像できます。
中央(京都)から離れているけど、あれだけの文化を築き上げた奥州藤原氏の美意識、矜持みたいなものもありますね。

 

―工芸品の面白さって何ですか?

美しさ。見た目の綺麗さ。仕事の丁寧さ。
あとは誰が持っていたとか、誰が作ったとかの伝来ですね。

 

 

 

今回の作品: 重要文化財 綾張竹華籠(あやばりたけけこ)

全12枚

時代 平安時代 12世紀         

仏を供養する散華の時に花を盛ります。1187年に没した藤原秀衡が高野山に奉納したと伝わっています。細い竹で花の形を編んだ籠と、六つ目に編んだ籠を重ね、その上から散蓮華文の綾織りの裂をはっています。平安時代末期の繊細な好みが表れた貴重な作品です。

 

 

藤田美術館

明治時代に活躍した実業家、藤田傳三郎と息子の平太郎、徳次郎によって築かれた美術工芸品コレクションを公開するため、1954年に大阪に開館。国宝9件、重要文化財53件を含む世界屈指の日本・東洋美術のコレクションを所蔵。

 

前野絵里  

藤田美術館主任学芸員。所蔵する日本や東洋の古美術品に絡むものはもちろん、宗教、建築、歴史なんでも気になる。直接役立つことも役立たないことも体験体感することが一番と考えている。

 

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